2002円


 六月分の携帯費用の領収書が届いたが、普段の月の倍以上の金額に驚いた。最近は仕事の件もメールでやり取りする時代、
「大の大人が長電話などしてないのに・・・」
と記憶をたどる間も無く、そんな金の使い方を強いる一大イベントが有った事を思い出した。そう、ワールドカップである。確かに携帯を使いまくっている。
「どのチケットが狙いめ?」
「パブリックビューイングの入場券があまったから誰かいく人いない?」
「試合を観た後飲み会はどこにするの?」
この2002年の六月は数年分を凝縮した様に、動き回り、人と会い、金を使い、そして感動した。

 まだ春の頃、仕事の移動がチャーターしたバスになった事がある。長時間の移動の途中コンビニに寄ったのだが、そこの店頭に松田直樹と中村俊輔のポスターが張ってあった。俊輔は「代表に残れるか?」などとニュースを賑わしている頃だ。そこで、それほどサッカーに詳しくない人にポスターを指差して
「これ だ〜れだ?」
と訊いてみた。もちろんこちらはジョークのつもりで
「オイオイばかにすンなよ!」
と返してくると思っていたら
「え〜と ちょっと待ってヨ。え〜・・・盲腸になっちゃった人?」
だって。一般の人の関心はそんなもんなのかと、ガックリだった。

 ところが周囲は徐々に変化していく。美術館で誰も立ち止まらない自分だけのお気に入りの作品があって、独占状態で鑑賞できている。ところが一人、また一人と立ち止まり始め人の輪がどんどん膨らみ、最後には人の波で自分がはじき出されてしまう・・・。例えていうとそんな感じだ。

 渋谷のワールドスポーツプラザでいつもの様に買い物をして出てくると出口でアンケートに捕まった。好きなチームは?とか好きな選手は?とか受け答えしてると、実はフジテレビのインタビューを撮っているのでお願いしたい、ときた。さすがにそれは断ったが、とうとう騒ぎが始まったなと感じる出来事だった。

 そして普通の女性がサッカー選手の名前を口にし始める。
「アンジョンファンは・・・」とか「私の稲本君」
なんて言い出す始末。

 つぎにオッサン連中が楽屋でサッカーの話をしだす。普段はプロ野球の人も試合が無いのでサッカーを観るらしい。普通こちらからはサッカーの話題を積極的に切り出す方ではないので、何かそんな話をするのが逆に照れくさいほどだった。

 「時代の風」とか「流行の波」とかいう表現があるが、文字通り こちらは何も変わっていないのに何か大きなものがすごい勢いで通り過ぎていく・・・そんな事を実感した六月だった。

 スーパーで買い物をして1962円ですと言われ、小銭があったので2002円を出した。
「2002円お預かりします」
・・・その数字を聞くだけで、あの六月の風が一瞬甦り少年の様に胸を熱くしてしまうのだ。


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