僕の家は駅から徒歩で二十分ほどかかる不便な所なので、ほとんど毎日の様に車を使う。コンサートで地方に行っていたので二〜三日家を空けた後、久しぶりに車に乗ろうと駐車場に行った。僕が借りている場所は家から徒歩で一分もかからないビルの地下だ。さすが不便な所だけあって、月12000円は東京なんかに比べると格段に安い。さて、蛍光灯がついてるとは言え薄暗い駐車場にやって来て、ふと見ると車の後ろの方に何か白い物が落ちている。明らかに使用後のティッシュの固まりだ。不審に思い車内に常備している懐中電灯を出してその近辺を照らしてみると、なんと見事な(?)人糞が落ちている。参った、何者かに野糞をされてしまったのだ。
状況を冷静に分析してみよう。まず動物の物とは考えられないか・・・?いや、その可能性は無い。野良のものが自分でティッシュを使うはずは無いし、ペットの場合糞を持ち帰らないような飼い主がティッシュを使う可能性も無いし、第一そのものの大きさが人間の物としてもかなり太いものなのだ。僕のスペースは一番奥である。しかも最後に止めた時荷物を出すので後ろにスペースをかなり空けて止めてしまっていた。なるほど、急に催した人がとっさに人目に付かない場所として選んだのだろう。
警察沙汰にする様な事件ならともかく誰にも訴えられないし、さてどうした物か。とりあえずそこに車を止める時はモノを踏まない様かなり前めに止める様にして何日か経った。モノは移動するはずも無くそこにある、当たり前だ。「ウサギは自分の糞をまた食べたりするんだったな〜」なんて役に立たない事を考えたりする。
また数日経って、今はやりの「便利屋」に頼んでみようと思った。電話帳で調べると、あるある。最近多い片づけられない症候群の人用か「掃除のプロが駆け付けます」とあったり、明言はしてないが「夜逃げの手伝いします」なんてニュアンスのもある。掃除のプロである必要は無いので、とりあえず「格安」をうたっている広告に電話をしてみる。
「で、どの様な依頼でしょうか?」
なんて訊かれると
「野糞の処理です」
とストレートにも言えず
「いや〜実は駐車場にですね、その〜人間の・・・」
なんてモソモソ言ってる自分が可笑しい。価格を訊くと、これが驚く事に出張料も込みで九千円とか一万円とかが相場だという。あの処理だけでその金額は出せない。そんなこんなでもう二週間弱も「現物」はそこにある。改めてモノを観察してみると冬の寒さと乾燥でモノはカチカチだ。これはもう自分でやるしかない。という訳で準備だ。まずビールの六本入りの紙のケース。これを鋏でちり取り型に加工して右用と左用に二つ用意する。そして大きくて自立する紙袋。これはビニール袋では駄目だ。片手でビニール袋を支えて入れる作業の場合、最悪こぼれたり「現物」が手に付いたりする可能性がある。幸いビッグカメラの大きな紙袋があったのでそれを用意。そしてマスクと軍手、これは最悪の場合即捨てても良いように古い物を準備する。
さて作戦決行である。自家製紙ちり取りを駆使してまず本体を持ち上げる。多少臭う位でこれは楽勝だ。ティッシュはコンクリートの床に張り付いてる物もあったが紙ちり取りで削り取っていく。後はその辺の砂を少しかけて足でならして終わり。あっという間だった。ゴミを捨てて来て改めて自分の駐車場を眺めてみる。迷惑な事件だったのに片付いた事でちょっとした達成感や爽快感さえある。変なものだ。
それからは、車を止める時は接触する位ぎりぎり後ろに止める様になったのは言うまでも無い。